2011年2月6日日曜日

「コーポレートファイナンス」を読んで

コーポレート・ファイナンス入門 (日経文庫)
コーポレート・ファイナンス入門 (日経文庫)

最近はファイナンス本をがんがん読んでいるせいで・・・。日経文庫からの本なので、結構固い本ですが分かりやすくコンパクトにまとまってていい本。DCFの考え方、WACCの考え方、配当政策リアルオプション、コーポレートガバナンス、IRRなど全部結構詳しく説明してある。まじめな本ですがオーソドックな入門書
印象に残った部分、勉強になった部分は以下の通り。

■なぜコーポレートファインナンスを学ぶか
(1)株主の立場から考える
・株主の企業の資金調達投資行動配当政策について考える。新聞や経済史などで株主重視の企業経営という言葉をしばしば目にする。
・株主重視というと、従業員や取引先、顧客を軽視するかのように思えるがそうではない。
(2)経営資源を効率的に利用する企業経営
・取引先、従業員、債権者、政府に対して支払うべきものを支払った後、ようやく株主の順番になる。株主に分配されるのは残余利益。残余利益を増やせる企業は経営資源を効率的に運営しているともいえる。
(3)株主まで満足すればみんな満足
・株主は企業の利害関係者のなかで、収益の配分を受ける立場として最後になる。
株主が満足する利益還元を実現できる企業は、取引先や従業員、債券者に対する支払をきちんと行っている。
(4)株主は企業の経営者を選出する
取締役会は、企業経営の意思決定機関である。経営陣あるいは経営者にとってもよい。起業経営者になるものは、内部出身者ほとんどであり、内部の事情や取引先に精通する一方で、内部に目が奪われがちであった。
・1990年代以降は、株主重視という視点から企業外部から経営に関与する社外取締役が増えている。

株主重視経営のあり方が語られている。日本的経営からの脱却を試みた1990年以降の本質がわかる。


銀行借り入れからマーケットでの資金調達
戦後、わが国の資金調達において中心的な役割を果たし来たのは、銀行からの借り入れである。現在でも、銀行借り入れが主要な資金調達手段であることは、変わりない。しかしながら、企業の資金調達に占める銀行借り入れが低下しつつあるのも事実。
・企業が銀行借り入れから脱却しつつある一因は、銀行を取り巻く環境変化にもあると思われる。
1980年代後半から1990年代前半にかけて、我が国の銀行は、様々規制(たとえばBIS規制)や不良債権問題に直面し、貸出残高を縮小せざるを得なくなった。そのため、銀行は以前ほど企業の資金ニーズにこたえることができなくなった。そこで、銀行借り入れに依存していた企業は、新たな資金調達のルートを確保する必要が出てきた。
・銀行借り入れに代わる資金調達手段として、株式調達や社債調達などマーケットからの資金調達が注目を浴び始めたのが1980年代以降である。
・いくつかの大手銀行が倒産したことも、企業がマーケットからの資金調達に軸足を移している原因である、取引銀行が倒産すると、銀行のみに頼ってきた企業は資金調達は困難になる、銀行倒産が珍しいことでなくなった

日本の戦後の高度成長と資金調達方法の変遷を知ることができた。1990年代以降って金融ビックバンとかBIS規制とかでめちゃくちゃ銀行も変化を求められた時代だったんだな。。。

産業発展の視点
・ここ数年、株式市場を通じて最も多くの資金を調達しているのは、ベンチャー企業である。ベンチャー企業は、事業がある程度軌道に乗ると、マーケットを通じて資金を調達し、事業を拡大していく。ベンチャー企業が株式を一般投資家に発行して、資金調達すること新規公開(IPO)という。現在、我が国には、ジャスダック、マザーズ・ヘラクレスなどベンチャー企業の新規公開を支援するマーケットが整備されている。
株式市場からリスク・マネーを提供する場と言われている。株主には、債権者より大きなリスクを負担する株主はそれに見合ったリターンが期待できなければ、株主は資金を提供しない

最近勝間さんの本を一気にバーって読んでんだけどすごく「リスク」って言葉をよく使ってる。もともとリスクマネジメントとかの話を徹底的に勉強されてりうようでためになる。本章でも「リスクマネーを供給する」って言葉を出てくるけど意味深い。

株式の持ち合いと持ち合い解消
・メインバンク・システムと並ぶわが国の企業システムの特徴として、株式持ち合いが挙げられる。企業間で株式を持ち合い、お互いをモニターとし合うことで、より良い企業経営を実現しようとするシステムのことである。
・一方、株式持ち合いには、短所もある。株式持ち合い強固な企業グループを形成するため、グループ内で付き合いを意識して、企業経営に姿勢が内向きになりかねない。グループ企業が株式の多数を保有するため、株主総会で経営者の責任を問うことは難しくなる。コーポレートガバナンスは機能せず、グループ内でもたれ合いが起こる。企業経営は緊張感をなく、収益性が落ち込む可能性もある。
・近年、株式持ち合いの短所が表面化している。企業は、株式持ち合い解消を進めている。持ち合い解消によって売却された株式を買っている投資主体の一つは外国人投資家である。国内の機関投資家と同様に、外国人投資家も我が国企業の潜在的な技術力を認めているのである、企業の株主となり、企業経営に介入することで、将来より高い利益還元が実現できると考えている。
外国人投資家の株式保有比率の上昇や企業活動のグローバル化が進んだ現在、我が国の企業経営に外国人が加わることも珍しくない。彼らは、コーポレートファイナンスの知識を持ち、株主重視の企業経営を知っている。

日本企業の悪い点のひとつの株式の持ち合いだと良く言われる。あとグループ化で徹底して大きくなろうとする傾向があるんだろう。右を向いても左を向いても同じような企業ばっかりなのも大きいのかも知れんね。韓国なんてメーカーはサムスン一本で勝負ってかんじだからなあ。インテルとかデルみたいにある部分に徹底的に特化したビジネスモデルが大切なんだな。

従業員の視点
・資金調達でもコーポレートファイナンスでも、マーケットの役割が大きくなっている。
従業員の持ち株制度ストックオプション制度を考えると、経営者や従業員は企業の株主でもある。従業員持ち株制度により毎月コツコツ購入した自社株は、大切な財産である。株価があがると資産価値も上がる。
・ストックオプションは、株価が上昇することで、多額の報酬を得ている企業の経営者もいる。一部の大手企業は、株価や企業価値が上昇するとボーナスを増やす企業体系を導入している。株価は多数の投資家が参加するマーケットの評価であり、どのような評価を受けているかは気になるものである。株価の大幅な下落は、マーケットにおける自社の評価は高く安定する。会社の看板を背負うご自身のビジネスも強気に展開できる

ベンチャー企業なんかではストックオプションはめちゃくちゃ従業員にとっては重要である。


■借金すると株価は上がる?
・アメリカの株式市場では、企業が負債比率を高めると、株価が上昇する事例が報告されている。借金した企業の株価が上がる?日本では負債では負債に対するイメージが良くないので、不思議に思われることが多い
・この現象にはいくつかの説明が可能である。ひとつは、最適資本構成の理論。現状の負債比率が、最適資本構成のポイントが低いときに負債比率を高めると企業価値が増加し、株価が上昇する
・金融機関への信用である。金融機関は、融資を行うにあたり、企業の資産内容を収益性を精査するその金融機関が資金を融資したのだから、企業の状態は良いはずである。市場はこのことを評価し株価が上昇する。
・企業が負債比率を高めるのは、デフォルトしない強い自信の表れである。この場合、企業は資本構成の調整を通じて、市場にシグナルを発信しているといえる。

この仕組みは「ざっくり分かるファイナンス」や「企業ファイナンス実証中継」などの本ブログでも紹介した。負債は少なすぎても多すぎてもだめ。直接金融と間接金融のバランス良いファイナンスが大切なんだ。負債を増やせるのはデフォルトしない自信のあらわれって解釈も確かだな。ソフトバンクとかたしかにそうだよね。ボーダフォン買収したときの有利子負債はすごかった。

■税金と機関投資家の影響
・税金を考慮すると、株主が受け取るのは、税引き後の配当であり、税引き後の受け取りも異なる。株主は、税引き後の手取り額が大きい配当政策を好む。
・マイクロソフトが、現金配当に踏み切った背景には、配当減税という税制の変更もあったようである。税金が配当政策に与える影響は自社株買いのセクションでも解説する。
・企業の配当政策は機関投資家の株式保有基準にも影響される。年金基金や投資信託などの機関投資家は、無配企業の株式い保有を敬遠する傾向がある。無配株は保有しないというルールをもつ機関投資家がいる。
・機関投資家は、優れた企業分析能力を持っている。機関投資家に保有される株式は、市場の評価も高くなる。機関投資家に敬遠されることを嫌う企業は資金を内部留保せず、配当することを選択する。
・たとえば、半導体最王手のインテルは、売上成長率が年率25という成長企業であった。同社が配当支払いを始めたい理由は、無配株は保有しないというルールを持つ機関投資家が多かったからだとされている。

配当額と機関投資家との付き合いはたしかにバランスが感覚が必要なんだな。ベンチャー企業がこぞって配当を増やそうと頑張るらしいけど、しっかり内部留保を高めて企業価値の上昇を伸ばすことが最優先だったりもする。配当があればいい会社ってわけでもないから要注意。

【まとめ&感想】
日経文庫は堅い・まじめ。だけどすごく体系化されていてミニ教科書のようで勉強になった。他にもいろいろあるから読んでみたい。「企業財務って万国共通でどこでも通じるものでなければならない、でもリテールファイナンスは国ごとにまるで違う。そこが大きな違い」ってマネックス証券の松本さんが言ってた。その意味でコーポレートファイナンスを体系的に学べるいい本だった。まだまだ初歩なのでさらに一歩踏み込んで勉強したい!

巻末にに載ってた読んで見たい本たちはこちら。結構重い本も多そうだけど。
新版 ファイナンシャル・マネジメント ― 企業財務の理論と実践
基礎からのコーポレート・ファイナンス
現代の財務管理 (有斐閣アルマ)
キャッシュフロー経営入門 (日経文庫)

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